· 

巖谷國士★講義 第3回「新★ぜみ」の報告

今日1月6日は、12月25日のクリスマスから数えて12日目、フランスでいうところのÉpiphanie(エピファニー/公現祭=jour des Rois)の日です。東方の三博士(Rois mages:ガスパール、メルキオール、バルタザール)が、星の導きによって、生まれたばかりのキリストをもとめてはるばるやって来たことを記念し、フランスではこの日にla galette des Rois(ガレット・デ・ロワ)を食べ、神の子と彼らの出会いを祝福します。

 

また日々の生活のなかで人やものがその本質(真実)の姿をあらわす瞬間のことを「エピファニー/epiphany」と表現することもあるそうで、そうした突然のひらめきや発見を好む私たち「★ぜみ生」であればなおのこと、1月6日に第3回「新★ぜみ」を開催し、mageならぬ★先生の講義をうかがえますことを、偶然にも!  貴重な機会と思っている次第です。講義の最後にはガレット・デ・ロワを一口ずつ、参加者全員(37等分!)で分かちあいました。 

 

キリスト教世界では翌月曜日から新年がはじまります。今年の月曜日は1月7日、まさに★先生のお誕生日から2019年ははじまるのですね!

 

さて、今回のテーマは「フランス」について。私たちの身近にあるフランスとは、クリスマスのビュッシュ・ド・ノエルのようなお菓子だったり、パンやワイン、料理にファッション、文化、芸術のほか、土地に根づいた豊かで多様な風景や建物や庭園、エレガントで美しいイメージばかりが思い浮かぶでしょう。

 

しかしながら、昨年12月、フランス全土でgilet jaune(ジレ・ジョーヌ/黄色いチョッキ)を身につけた人々が政府の増税をきっかけに抗議デモをおこし、ついにはマクロン大統領の辞任要求にもいたる、大々的な国民の怒りをあらわにしました。凱旋門を汚しシャンゼリゼ大通りに火をつけるほど……。ただ、こうしたフランス人(フランスという「くに」に生きる人々)の行為は、街頭で民衆の声を響かせて、権力の不正や濫用に、徹底的に抵抗しよう(Réagissez!)とするもので、彼らが社会的正義と多くの権利を獲得するために編みだした手段ともいえるのです。ひるがえって日本を見れば、国家権力がふるう暴挙に抵抗するでもなく、まるで自発的隷従を受けいれているかのよう……。

 

第3回目の講義では、巖谷先生がこれまで旅してきたフランスの不思議な町、庭園の数々を、ご著書とTwitterの★写真でめぐりながら、フランスの自然や風土だけでなく、世界の記憶と、前回のイタリアと同じく地中海世界を共有する人々の「くに」への意識、いまを生きる私たちへの指針など……さまざまお話を聞かせていただきました。

 

「新★ぜみ」の報告に代えて、okjに講義の「概略」とあわせて参加者からの「感想」を一部、匿名にてご紹介させていただきます。

 

***

【概略】

 

「フランスとは何か」を、エピファニー(公現祭)の日に、★先生がまさに「出現」させてくださいました!

 

まず、人為的で可変の「国家」ではなく、自然や風土に根ざした「くに」であることを、★先生が去年旅したブルゴーニュにまつわる歴史から例にあげ、Twitter★写真も示しながら、そもそも人類が20万年前から旅をしつづけてきたという事実を明らかにします。

 

ラスコーなどの洞窟絵画から、芸術の起源までも!旅する原生人類~それ以降もこの地域には、ケルト人やローマ人、ゲルマン人が交じりあい、ガロ - ロマン(鶏たち!)文化も生まれながら、王朝や王国も次々に交代していく国境なき歴史が立体的に浮かびあがります。

 

ストラスブールをはじめとする、神聖ローマに繁栄をもたらした自由都市群、なかでも北の海まで広がるフランドル文化圏から東側、縦に伸びるブルゴーニュ王国の豊かなこと! 

 

ブリュッセル〜ブリュージュ〜ディジョン〜ナポリ〜シチリア、イタリア - ルネッサンスへ連なる「縦のライン」が見えてきます。アールヌーヴォーも、北のグラスゴーから南のミラノまで連なっていたと★先生。

なんという驚くべき視点でしょう! 

 

アントネッロ・ダ・メッシーナ(ヤマザキマリ『リ・アルティジャーニ』より1ページを引用/★先生Twitterを参照しつつ)が、フランドルのより強度のルネサンスに驚愕したように、このイタリアとの接続には驚嘆です! 

 

アルル王国やマルセイユは、古代ギリシアの植民市や都市だった町でもあるので、古代オリンピックの休戦協定期間の、マッサリアからオリンピアへの観光旅行にまで話は及びました。

 

★先生がTwitterにあげているブルゴーニュの町々などの写真を見ながら、その地の自由さ率直さ、すなわち「フランク」さを実感する私たち。中世が「暗黒時代」などではなく、現代よりもずっと往来がさかんで文化が発展していたことや、その「現代」の問題を指摘し、ジレ・ジョーヌ運動についても説いてくださいました。

 

講演の最後には、ガレット・デ・ロワを分けあい、先生が冒頭解説してくださったように、東方三「祭司」の祝福、キリスト教以前の風習……自然界の死と再生の儀式……に耳を傾ける誰もが浴することができたのでした。

 

今回もすばらしい講演を、本当にありがとうございました!

 

***

さてここからは、参加者よりお寄せいただきました「感想」を一部ご紹介します。

 

【感想】

◎ブルゴーニュの旅は、私がフランスで巡った中でも1番心に残るものでした。今回の講義でバラバラだったイメージがまとまっていくような感覚になり、もう一度ブルゴーニュをめぐってみたくなりました。ヴェズレー、オータン、ボーヌ、などなど。

 

◎一角獣の講義もぜひ聞きたいです。リモージュにある有名なチョコレート屋、Auzonとか言う名前だったかと思います。Fève にはBernardaudの小さなお皿型の磁気が入っていました。毎年コレクションする人もいるそうです。

 

◎高校時代はろくに世界史の勉強をせずに過ごしてしまいましたが、こんなに生き生きとした人の移動がある面白い世界だったとは!! 歴史の教科書もメディアの報道も嘘っぱちなんだという、知っているけど見ないふりをしていたことに改めて気づかされました。今年は自分の感性を頼りにこの日本を泳いで行きます。

 

◎今回は、フランスとは何か? でしたが、前回と引き続き授業に出て感じたのは、もともとすべての国には国境がなく、考え方や、実際にも国境なくいろいろな人たちが行き来しているのだとつくづくと実感しました。私自身ももっとそうなりたいと思ったのと、旅をして定住をなるべくや避けたいと思いました。

 

◎フランスとはどういうことか考えもしなかった展開。魅力的な街のことを知りまた旅に出たくなる。これからのことを境界線についても考えようと思います。

 

◎ヨーロッパ中央に位置する「フランス」の成り立ち、都市について、15世紀ごろまで、講演いただき大変興味深く、また、Twitterでの写真等も後日、講義内容と合わせてもう一度見たいと思います。できましたら15世紀以降の講義も希望します。

 

◎ユニコーンについてのご講義を熱望します!

 

***

 

報告の最後に……

このたびの「新★ぜみ」はちょうど★先生のお誕生日の前日に催されたので、講義後の第26回夕食会の会場(庭園美術館デュ・パルク)にて、ぜみ生から★先生へ、オルタンシアとかすみ草とデルフィニウムのブーケが贈られました。

他にも、mageならぬ★先生のもとには、巨大なグリフォンの卵やら幾重にも宇宙が内包されたラブラドライトが届けられたのでした。