巖谷國士★特別講演「庭園とは何か シュルレアリスムの視点」@ギャルリー宮脇

京都滞在2日目のこの日は、前日の恵文社一乗寺店での講演「花と木のシュルレアリスム」から一転、
「庭園とは何か シュルレアリスムの視点」という、いよいよ漠とした(いや)じつに広大なテーマがかかげられ……なおかつ、会場であるギャルリー宮脇には、オーストラリアの著名な画家ブルーノ・レティによる "The White Garden" シリーズが展示されてもおり……
オーストラリア人の描く(西洋/抽象)庭園画を背に、京都=(日本)庭園都市を自負する観客たちを正面に、「庭園とは何か」を講釈しようっていうんですから~、★先生どんなお話をなさるの~って、私なんか、ハラハラドキドキせずにはいられません!
 
でもやっぱり★先生はすごい!
★先生の庭園の定義には、東洋も西洋もないのですから! そんな概念の生まれるず〜っと以前、太古の時代にまでさかのぼって、話は展開してゆきます。
 
★先生は庭園の起源をもとめるのに、いくつかの具体例を挙げてくださいました。
 
紀元前15世紀の古代エジプトの墳墓から箱庭の模型が発掘されたこと、ほかにもルクソールの西岸にそびえるハトシェプスト女王の葬祭殿のテラスには、かつて大庭園が営まれていたことがわかっています。わざわざソマリアまで遠征し、珍しい植物を運んできたことが、女王の一大事業として壁画に描かれているのですから!
 
もっとさかのぼれば、紀元前30世紀の古代メソポタミアに生まれた『ギルガメシュ叙事詩』のなかにも、ウルクの王ギルガメシュは「香りのよい、味のよい」樹木を囲い、庭園をもっていたとあるそうですから、人類の文明のなかには、古くから庭園があったことが証明できるでしょう。
 
ギルガメシュは国の繁栄のため、レバノン杉を求めて森の神フンババに戦いを挑み、森の木々を苅って川へ流し、下流の都ウルクへと凱旋したそうです。この話が伝説や神話であったにしても、★先生は「類推=アナロジー」をつかって、この説話が太古の昔から今日までの、私たち人間の営みそのものであることを、具体的な証拠をしめしながら、みごとに解き明かしてくださいました。
 
氷河に覆われていた時代をへて、地球上にはしだいに植物が繁茂するようになり、生命が生まれたこと……あらゆる生命が植物に育まれ、人間も同様、森の恵みを享受していたこと……しかしやがて人間たちは森から出て、森を苅り、農耕することをおぼえて定住し、文明を築くようになったこと……文明は自然を壊しながら発展し、自然の力を人間の理性で抑えこみながら勝利するといった考えに変わってきたこと……などなど。
 
ギルガメシュの生まれたシュメール文明は、現在のイラクにひろがっていた人類最古の都市文明ですが、そのころ人々はすでに、畑と同じく、四角く囲われた空間を「庭園」として営んでいました。そこには果樹のなる、薬として役にたつ、香わしい植物たちが栽培されていたといわれます。そしてこれが、庭園の起源となり、観念になったのだと……★先生の話は、文明の進歩とともに生じる階級や宗教、死生観といった、あらゆるものをまきこんで、時代をどんどん下りはじめました。
 
メソポタミアからエジプトへ、アッシリア・バビロニアからアケメネス朝ペルシアへ、古代ペルシアからギリシア、ローマ、イスラム、西のはてのアルハンブラ宮殿にまで……ここからしだいに「楽園」という言葉が点滅しはじめます。
さらに、オリエントからヨーロッパへ向かっていたベクトルは、インドや中国、はては日本にまでおよび、あらゆる時空を飛び越えはじめました。
 
★先生の知識の泉から湧き出でる、観客の興奮をよぶスリリングな話の展開は、以下に挙げる単語でつないだほうが、もしかすると、目で読んでくださっているみなさんの五感に、じかに伝わるかもしれません。いつものように、★先生がひゅっひゅっひゅっと目くばせしながら、私たちに指さすように。
 
ザグロス山脈、チグリス・ユーフラテス川、イナンナの園、バビロンの空中庭園、ペルセポリス、ゾロアスター教、パルディス、オアシス、聖なる森(サクレ・ボスコ)、ミダス王、エスペリデス、ガリア、シルヴァティクス、ウェルギリウス、アルハンブラ宮殿、泉水、水路、タージ・マハル宮、クラウストル、糸杉、ホルトゥス・コンクルスス(囲われた庭)、悦楽の園、ヴィッラ、アルベルトゥス・マグヌス、ペトラルカ、ヴェルサイユ、ルイ14世、ル・ノートル、秦の始皇帝、漢の武帝、イングリッシュ・ガーデン、パビリオン、パゴダ、ジャングル、ソバージュ、シュルレアリスム、推古天皇、須弥山、日本書紀、夢窓疎石、相阿弥、枯山水……
 
これら魅惑的な響きをもつ、人類史上あまりにも有名な名詞をつないで説かれる(講義中つぎつぎにあらわれる)★先生の、洋の東西を問わない庭園史は、いずれも世界共通の言葉(word)であり、概念(idea)でもあるからでしょう。私たちのみならず、日本語を解さないレティさんにすら、不思議と★先生の話す「庭園」が、多様なイメージとして浮かんでくるようです。
 
ここに挙げた名詞をひとつでも、辞書で調べてみてください。その単語のもつ背景と庭園とのかかわりを知ったら、どれも眩暈のするものばかり!
 
最後に★先生は人間にとって「庭園とは何か」という問いに(それこそ前のリポートにある「おも/しろく」)こたえてくださいました。
 
ここでは以下の言葉を記して、★回答を暗示しておくだけにしますね(すべて書くにはもったいないもの)!
*果実・薬草・香りへの思い
*文化の記憶をよびおこす作用
*失われた楽園の写し
*(文明に引きずられることのないように)人間が生きてゆくための装置
 
だって★講演は、やっぱりライヴで聞くのが素晴らしいです!  
★先生の野生の目が、その時々にとらえているもの、指さすものを追いかけているだけで、私もまた★先生のアナロジーの魔法を追体験しているみたいで、ワクワクドキドキがとまらないんですから!
タイトルに「シュルレアリスムの視点」とあるのはつまり、「巖谷國士の視点」と理解できるでしょう。
 
私などは、こんな風に魅力的な言葉で紡がれる★先生の庭園史、★アナロジーの連続に、毎回すっかり酔ってしまうのでした〜。
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