巖谷國士講演★「森・庭園・建築ー戦前のモダニズム」東京都庭園美術館×明治学院大学

巖谷國士講演★「森・庭園・建築-戦前のモダニズム」

今年開館30周年を迎えた東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)。

この記念に、同じ白金台の地に、歴史ある建築をもち、創立150周年を迎えた明治学院大学を会場にして★先生がご講演をされました。

 

朝香宮邸として竣工したのはちょうど80年前の1933年で、1923年の関東大震災からは今年で90年になります。

10万人以上が亡くなり、ひとつの大きな町が消滅してしまうほどの損害をもたらした災害。

建築を歴史や自然や社会のなかで考える★先生は、関東大震災以後の建築という視点から、旧朝香宮邸をはじめとする白金や高輪の建築群をとらえられます。

1932年の地図を見ながら、この土地の縄文的世界や、市電など当時の交通網についてお話をしながら、そこにある建築、邸宅、西洋館のひとつひとつを詳しく紹介してくださいます。のちのスライド上映でも、その建造物、建築家をめぐる知られざるお話の数々! 木組みや屋根や入口や窓の様式にまで注目する★先生の目によって、日本の西洋館の、この土地における特殊性が明らかになっていき、魅了される観客たち。また★先生撮影の写真がすばらしいのです!

 

朝香宮邸も、もともとは和風建築で高輪3丁目にあったところ、震災によって住めなくなったため、当時の白金御料地へ引っ越すことになったのでした。ここは江戸時代は松平讃岐守の大名屋敷・大庭園で、森全体が庭園だったとおっしゃる★先生。竣工当時の映像や、現在の内部や庭園の映像、「森と芸術」展の映像とともに、朝香宮がパリ万博で見たアール・デコ展について、第一次世界大戦を経て変化した装飾の傾向について、マレ・ステヴァンスやアドルフ・ロース、ル・コルビュジエなどにみる当時の建築の変化や朝香宮邸との共通点について、世界規模の視野で話してくださいました。

 

そうしてわかる、この東京都庭園美術館の森の世界。内部の照明や明かりのとり方は、森の木漏れ陽のようと★先生。植物の装飾が繁茂し、絵本もふくめさまざまな芸術・美術が混ざりあい、引用され、全体として森の世界があらわれている……照明や階段の欄干などに見られるジャポニスムなど、アール・デコそのものに東洋的な要素が入っていて、その感覚がずばりこの土地にあったと話され、女性的な感覚や発想が見られるのは、允子妃殿下のご意見もあったのではないか……と着目します。

 

庭園には不思議な樹木や彫刻や「人間みたいなもの」たちがいるアニミスムの世界。

縄文時代からこうした森とメルヘンの世界で暮らしてきたことを、いまの私たちも忘れてはならないのです。

 

★先生は三陸海岸へ行き、そこで目撃した現在の状況も話してくださいました。

津波で町がさらわれた土地に、周囲の山(=森)を崩した土で、わずか数メートルの盛り土をして宅地造成をする……森がなければわたしたちは生きていけず、災害にも耐えられないのに!

 

「建築」というとき、一方に廃墟の光景があり、震災、戦争がある……人々は失われた建築を忘れてはならず、その土地やそこで紡がれた歴史のイメージを想像力で抱きつづけることではじめて、これから建てられる「建築」を理解することができる、とおっしゃる★先生の言葉には、息をのみました。

 

「建築」も歴史や自然の中で考えてゆく、現在の社会を見とおすアクチュアルな展開、本当にすごい講演でした! 東京都庭園美術館×明治学院大学の主催者のみなさま、すばらしい企画を、ありがとうございました。今日の参加に恵まれた観客は、東京都庭園美術館のリニューアルオープンに真っ先に駆けつけることでしょう!

(okj)