巖谷國士×ポール・デルヴォー★講演@鹿児島市立美術館

2012年7月22日・鹿児島市立美術館での

巌谷國士先生のご講演「ポール・デルヴォーの不思議な<旅>」につき、

さっそくわれらがリポーターokjが(偶然にも!幸運にも!)熊本から鹿児島へ急行してくれ、

★(=巖谷國士)先生の講演を聞き、このMont★Analogue HPにリポートを寄せてくれました!

ポール・デルヴォー展-夢をめぐる旅-の巌谷國士先生による記念講演

「ポール・デルヴォーの不思議な<旅>」@鹿児島市立美術館

偶然にも!幸運にも!九州縦断です~!

鹿児島市立美術館でのご講演「ポール・デルヴォーの不思議な<旅>」、いままでのデルヴォー観はなんだったんだ~っと目からウロコのすごい体験でした! 以下講演録です。

 

鹿児島の町へ駆けつけてみれば、同じ九州でも熊本とはまた別世界。どこかエキゾチックな空気がただよい、視界にはいつも桜島というMontがあり、火山灰が降っています。
かの祇園祭の大太鼓の音に加え、しかも講演直前には突然の雷雨が! にもかかわらず、講演会場は満員でした。さすがです!

★先生の今回のご講演は、いままで日本でイメージされてきた裸の女性たちのエロティスムだとか、これぞシュルレアリスムの代表格だとかいう、コテコテのデルヴォー観をくつがえすものでした。今回の展覧会では、いわゆるデルヴォーらしい作品だけでなく、デルヴォーが絵を描きはじめたころの作品から最晩年の作品まで、彼の生涯にわたって作品を見ることができます。

1897年に生まれ1994年に没し、20世紀そのものを生きたデルヴォー、100年近くかかってひとつの人生の旅をした人として★先生はお話をしたのです。

ホメーロスのイーリアスやオデュッセイア、また「地底旅行」などのジュール・ヴェルヌ作品を愛読していたデルヴォーは、子どものころからもう頭の中で旅をはじめていました。★先生のお話はトロイ戦争時代のオデュッセウスの旅から、現代ベルギーの多言語土地状態、産業や法律まで、時空にわたって展開します。
これら古代からの時間の流れやベルギーの風土と一体化して、内気なデルヴォーが美術においてもゆっくりと変化していく過程を、初期の作品からスライドで追っていく★解説。

これ自体まさしく旅でした。

そのごくごく一部を紹介すると……ベルギーという風土をしみじみすばらしく描き、旅を予感させる荒い北海の光景を描き、森の絵の中に超現実が芽ばえ、女性像の変化にデルヴォーの新しい世界を予感させ、ようやくシュルレアリスムに出会い、ランボーともつながる夜明けの女神などあらわれ、エフェソスの神殿の中にトラム(市電)を走らせ、女性たちはみな違う時代の衣装をまとい、不思議な鏡とも額とも絵ともつかないもののなかに呼びよせられ、かつてひきさかれた恋人タムと再会し、ギリシャやナポリを旅して遺跡を克明に写生し、骸骨をおそろしく生き生きと描き、とうとう目が見えなくなりながらも最後に「カリュプソー」や「海が近い」などを描きオデュッセウスの世界に戻っていく……海があり、また旅に誘われる……これまでたどってきたはるかな年月と航路、そしてさらなる出発を思い涙がでました。

本当に感動的な旅の講演でした。また先生がおっしゃるように、デルヴォーの絵にはとんでもない奥行き空間があります。隅から隅のはるか彼方まで見るように誘う空間、目も、視線も、旅をするのです。押しつけられた現実は平面的で意味がつきまといますが、彼のとらえたもうひとつの現実から、世界には想像以上の奥行きがあることがわかるのです。ドアや窓や鏡から開かれる超現実へのトンネル!デルヴォーはシュルレアリスムから自由を得たことでしょう。私は★先生のこれらの視点にこそ自由を得ました。現実のなかに旅をつくる、現実はもっとおもしろく美しくヘンで不思議であるはずだ……という先生のことばには興奮! 本当にすばらしい超講演でした。

鹿児島市立美術館の展示もすばらしく、サンティデスバルドから来たデルヴォーのランプや女性の衣装や市電のアンテナ?や鏡などがさりげなく配置されている不思議な空間になっています。常設展にも「都会脱出」というたまらなくへんてこかわいいデュビュッフェの作品と、赤いフォンターナの作品と、岡本太郎の作品が3つの並びになっているというすごい展示があります。これまたいっとうかわいいカンディンスキーに、ありえないほどおかしいアンドレ・ボーシャンの森の絵も。実は渋谷の忠犬ハチ公像も作者は鹿児島の彫刻家で、これらの展示もあります。

今回のデルヴォーの展示作品のなかには、まるで鹿児島市内を走っているような市電や、桜島のような山が登場していました。彼の旅したナポリと鹿児島市は姉妹都市でもあり、そもそも九州とベルギーは大きさや人口密度も同じくらいだとか。鹿児島の海、旅と続いているでしょう。この画期的な展覧会を鹿児島で見ることには大きな意味があります!遠くの方も近くの方にも、ぜひおすすめします!!カフェもとってもすてきなんです!

桜島や異人館、尚古集成館、仙巌園への旅へも同行させていただき、鹿児島市立美術館のみなさまにたいへんお世話になりました。この場を借りて心からお礼申しあげます!

★先生、鹿児島市立美術館のみなさま、本当にありがとうございました!!(okj)